【自力で申請】建設業のものづくり補助金の申請について

我が国の産業を支える中小企業は、生産の規模を拡大するよりも高付加価値の生産によって生き残りを図ってきました。

しかし、昨今の人手不足や働き方改革等によって、製造業の命題の一つである生産性の工場を実現しなければならない状況にあります。

この様な現状を鑑み、政府では中小企業の生産性工場を促すための一つの施策として、補助金を制度化した『ものづくり補助金』を実施しているのです。

ここでは、『ものづくり補助金』のメリットを解説するとともに、自力で採択を勝ち取る方法を解説します。

ものづくり補助金とは


出典:http://www.monodukuri-hojo.jp
ものづくり補助金とは、経済産業省中小企業庁が中心となって、中小企業の国際競争力及び新産業創出のために、中小企業生産性革命推進事業として補助金を制度化した施策です。
補助金には以下の3つが存在しています。

  1. ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
  2. 小規模事業者持続化補助金
  3. IT導入補助金

一般に言われるものづくり補助金とは、『ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金』のことを指しています。

一見すると製造業、特に機械系業界を対象とした補助金の様に感じるかも知れません。ですが、ものづくり補助金はあくまでも生産性向上及び革新的な技術開発を目的としているので、建設業(新工法開発、生産の改善、IT技術の導入など)も対象範囲内となっているのです。

そのため、ものづくり補助金は中小企業であれば、ぜひとも利用しておきたい補助金の一つだと言えるでしょう。

ものづくり補助金の概要

補助金 ものづくり補助金 小規模事業者持続化補助金 IT導入補助金
補助額 100万円~1,000万円 ~50万円 30~450万円
補助率 中小1/2、小規模2/3 2/3 2/3

上の表は、『ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金』の補助額及び補助金額を表にしたものです。

その他の補助金と比べるとものづくり補助金の額がいかに多いか理解できるでしょう。

また、ものづくり補助金の補助率に関しては、基本的に中小で1/2となっていますが、従業員5名以下等の小規模事業者であれば2/3の補助率となっています。

しかし、中小企業であっても先端設備導入計画・経営革新計画の認定を受けているのであれば、2/3の補助率が適用されるケースがあり、比較的そのハードルも低いので、ものづくり補助金に申請する多くの企業が2/3で申請しています。

ものづくり補助金の対象者と対象事業

ものづくり補助金を貰うためには、経済産業省中小企業庁に申請しなければなりません。

また、ものづくり補助金申請に際しては、その対象者と対象事業が定められているので、誰もが申請すれば貰えるものではないのです。

では、ものづくり補助金の対象者と対象事業とは、どの様になているのでしょうか。

対象者

ものづくり補助金の対象者は、中小企業及び小規模事業者となっています。

それぞれ中小企業基本法によって定義されおり、業種、資本金、従業員数により以下の様に分類されます。

  • 中小企業(製造業その他)…資本金・出資の総額が3億円以下、または従業員の数が300人以下
  • 小規模事業者(製造業その他)…従業員20人以下

ただし、中小企業の定義に合致しても大企業の子会社等の様に、大資本の支配下にいるような企業は、中小企業であってもものづくり補助金の対象者にはなりません。

また、財団法人、社団法人、医療法人、学校法人なども対象外ですが、条件を満たすNPO法人はものづくり補助金の対象となる場合があります。

対象事業

ものづくり補助金の対象事業となるものは以下のことが求められます。

  • 革新的なサービスの創出、サービス提供プロセスの改善
  • 革新的な試作品開発、生産プロセスの改善
  • 事業計画書(他社と差別化し競争力の強化方法を明記した)を作成し認定支援機関で認証

やや抽象的な表現で分かりにくいですが、新しい技術の導入によって業種内でどの程度のシェアを確保出来る競争性・差別化が図れるかを中心に検討すると良いでしょう。

例えば、現在の事業に密接した技術・サービスの活用によって、その業界全体に革新性をもたらす様な場合は、有利になりやすいと言えます。

ただし、特許性があるほどの技術が求められる訳ではないので、しっかりと事業やマーケットを分析していけば申請が通りやすくなるでしょう。

採択率は約40% 難易度は高め

2019年度のものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、IT導入補助金の予算額は1,100億円となっています。

比較的大きい予算規模であると言えますが、これらを申請する中小企業の数を考えると、採択率の難易度は高めだと言えるでしょう。

また、実際に中小企業がものづくり補助金に申請する場合、本業の傍ら申請を行うのは難しく、採択率の難易度が高い現状を突破するために、加点要素(新規性、独自性、1%以上の賃上げに取組んでいるなど)に対応する事が必須なのでなおさらハードルは高くなります。

採択率は概ね40%前後です。

ものづくり補助金の事例

中小企業にとって、生産性向上の足掛かりとなりうるのがものづくり補助金とIT導入補助金ですが、実際にはどの様な導入事例があるのでしょうか。

実際に導入された例をいくつか紹介したいと思います。

生産性を高める事例がほとんど

ものづくり補助金は、生産性を高め業界全体に革新性をもたらせる事が目的なので、建設業においては新工法の開発や鉄筋等の鋼材・セメントの生産性を高める導入例が多くなっています。

導入例 企業名 都道府県
新型鉄筋自動曲装置導入による建築用鉄筋加工の高度化及び生産性向上 株式会社町田工業 長崎
鉄筋の加工精度向上による作業の効率化 有限会社藤野鉄筋工業 茨城
脈動を使ったセメントスラリー噴射システムの試作品開発 株式会社セリタ建設 佐賀
地盤改良材の革新的低減技術を用いた高効率地盤改良工法の開発 東洋産業株式会社 福岡

工場新設・増設は地方自治体の補助金助成金も一つの選択

ものづくり補助金の様な国の主導する補助金は、申請のハードルが高いのが現状です。

昨今では、自治体によって工場や事業所の誘致を積極的行っているケースも珍しくなく、工場新設・増設の自己負担を抑えられるので、より事業を有利にすすめる事が出来るでしょう。

補助金の使用用途に合わせて地方自治体の補助金助成金も検討しましょう。

補助金・助成金 補助内容 都道府県
地域産業立地事業費補助金交付要綱 7億円 (成長分野の工場、研究所は10億円) 静岡
広島市企業立地促進補助制度 建物・機械設備の取得費の率15%(限度額5億円) 広島
企業誘致助成制度 投下固定資産額の10%(特定分野は15%) 香川

自力で採択を勝ち取る方法

さあ、ここからが本題です。

本補助金は、国の予算で適正な事業者に配布されるものです。

経産省などで公表されているその事業年度の予算は、どのような考えに基づいて確保されたものなのかをもう一度確実に把握しておきましょう。

経済産業省関連予算案等の概要

また、経済産業省の委託調査報告書もチェックすることをお勧めします。

経済産業省 委託調査報告書

これらの報告書は、外資の戦略コンサルティング会社を含めた事業戦略のプロの方々がまとめた資料です。

今後の展望や市場の動向を知るうえで非常に有用な資料となっているので、必ずチェックしましょう。

国が定義している課題を解決する計画書を書く

本補助金は、国の予算から(税金から)配布されるものです。

国の税金をありがたく使用できるわけなので、国が抱えている悩み/課題を解決する事業計画書を提出しなければ採択されません。

では、国が抱えている悩み/課題とはいったい何でしょうか?

今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更とはつまり「増税」のことを指しています。

要は、「増税するけど、お金あげるからもっと効率よく商売してね!」といっているわけです。

なぜこのようなことをするのか?その大きな理由は少子高齢化です。

特に、建設業においては、就労人口の減少が深刻で、若年人材の確保と技術承継が問題視されています。

人口が減少し、さらに新型コロナウィルス感染症の影響で事業者が減ってしまうと、納税額も減少してしまうので国もこの問題に関しては非常に困っています。

設備投資にかける資金は補助してあげるから、その代わり事業を存続させてしっかり納税してね!といっているわけです。

国がこのような仕組みを用意している限り、補助金を最大限勝ち取って、今後に備えなければなりません。

自社での革新的な開発=AI/システム開発が正規ルート

ものづくり補助金の審査項目には「開発」という言葉が何度も出てきます。

また、加点項目に「経営革新計画」の認定の有無も設定されています。

中小企業庁 経営サポート「経営革新支援」

要は、ただ単に生産性が向上する機械を導入するだけではだめで、自社の強みを活かした新しいシステムや商品を開発する必要があるということです。

後述しますが、この部分はAI開発と非常に相性が良いです。

開発は自社のノウハウの蓄積が起点になります。これは、AI/システムも同様です。

AI/システム開発の第一歩は、徹底的な自社分析と単純作業の洗い出しです。

審査項目の「開発」部分には、自社の強みを強化するAI/システムを開発することが正規ルートであり、簡単なものであれば10万円前後で実装できてしまいます。

高額報酬のコンサルタントではなく、商工会議所の中小企業診断士に手伝ってもらう

資金に余裕がある大企業は、優秀な経営コンサルタントを雇うことができますが、我々中小企業はそんな余裕はありません。

コンサルタントは中小企業を相手にしては儲からないので、民間企業の優秀なコンサルタントはそもそも中小企業を相手にしてくれません。

親身に話を聞いてくれる中小企業向けのコンサルタントも確かにいるかもしれませんが、着手料と成果報酬で10%~20%のコストが発生してしまいます。

ものづくり補助金であれば、100万円~200万円のコストになります。

このコストさえ、無駄にしたくないというのが中小企業の本音のはずです。

多額の報酬をコンサルタントに払わなくても、商工会議所には優秀な中小企業診断士の方が集まっています。

中には、ものづくり補助金の審査員も担当している方もいらっしゃいます。

商工会議所の中小企業診断士の方は、非常に親身に相談に乗ってくれるので、最大限活用しましょう。

中小企業白書の内容に合わせる

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の運営は、中小企業庁及び独立行政法人中小企業基盤整備機構が行っています。

中小企業庁は、新型コロナウィルス感染症等の危機を乗り越えるためには事業内でどのような取り組みを行えばよいのかを分析・調査して報告書としてまとめてくれています。

この報告書が中小企業白書です。

まずは、運営者である中小企業庁の考えを理解することが大切だと考えます。

中小企業白書の中には、中小企業を取り巻く環境と「付加価値」の必要性が明記されています。

どのようにこの「付加価値」を増大させるための経営戦略を考えればよいのか?のアドバイスをわかりやすく記載してくれています。

中小企業白書2020年版概要PDFより

おすすめの書籍1:「競争の戦略」M.E. ポーター, 土岐 坤他 

管理運営している組織が中小企業庁である以上、中小企業白書に明記してある方法に沿って計画書を作成すれば採択確率は上がると考えます。

ただ、大まかな事例しか記載していないので、詳細を勉強するために以下の書籍を参考にしました。


難易度★★★

おすすめの書籍2:「競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」


難易度★
おすすめ

実際に事業計画書を書いてみよう:その1


では、実際に事業計画書を書いてみましょう。

審査員は中小企業診断士の方です。

製造業・建設業の場合、現状把握と目標設定を強く意識しましょう。

そして、目標達成のための課題はどのようなものかを具体的に記載していきます。

当社の概況

まずは、自社の現状を詳細に記載します。

本事業に取り組むきっかけ

今回の補助金事業に取り組むきっかけを記載します。
この部分は、既存顧客にヒアリングを行った結果、○○という顧客ニーズに応えられていないという問題を記載します。

本事業における取組み

自社の現状と、「○○に対して低コスト対応ニーズを実現すること」という目標を設定しました。

目標を達成するために発生する課題を記載し、どのように解決していくのかを詳細に記載します。

中小企業診断士の方は、「問題」「課題」という言葉に非常に敏感に反応します。

言葉使いを間違えないように注意します。

また、製造業に精通している方であれば、ボトルネック工程にかかる時間を重要視している方もいらっしゃいます。

所要時間を多く要するのは(ボトルネック工程)、「○○」の工程であり、本事業で導入する設備でこの工程の作業時間を短縮させるという文章の展開にします。

設備投資の概要

今回の補助事業で導入する機器の詳細を記載します。

また、導入する機械だけではなく、今回の現状分析により判明した課題を解決するAI/システムの概要を記載します。

「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」との関連性

この部分は、事業計画書の作成テクニックです。

手引きに記載されている審査項目をどのようにクリアしていくのか審査員にわかりやすく記載します。

本事業のメリット

新/旧の事業比較を行います。

生産性がどの程度向上するのか、その計算根拠も詳細に記載します。

本事業の優位性(他者との差別化・競争力強化の実現)

基本的には、顧客のニーズ×営業力が地場企業の戦略ではないでしょうか。

その旨を記載します。

実際に事業計画書を書いてみよう:その2

つづいて、その2の事業計画書を記載しましょう。

本事業における市場分野

建設業における若年入職者の確保と技能承継は、国が抱えている重要問題です。

国の抱えている課題の解決案を提示するように、本事業の必要性を記載します。

既存顧客のニーズや要望

既存顧客の企業名も具体的に記載し、説得力のある文章を作り上げましょう。

事業推進体制

事業推進体制をグラフなどでわかりやすく記載します。

期待される効果等

労務費増加率<売上高増加率<限界利益率<経常利益増加率の理想バランスの改善は、定番パターンです。

資金調達

借り入れを行う場合は、どのような方法で資金調達を行うのか記載しましょう。

まとめ

昨今、新型コロナウイルス感染症の影響で、経営が難しくなっている企業が増えています。

建築業界でも、中国からの建築資材の輸入がストップしたことで、工事を途中で止めなければならなかったり、着工を延期したりと、かなり影響を受けているようです。

今回ご紹介した「ものづくり補助金」は、そんな経営に行き詰っている事業者を支援するための補助金です。

新たな販路開拓や新商品開発など、経営持続のために必要な投資に対して補助してもらえます。

この補助金を自力での申請することはなかなか難易度が高いですが、十分可能です。

是非自力で採択を勝ち取って、自社の設備投資に活かしてください。