タワーマンションのデメリットについて

昨今、いろいろな意味で話題の「タワマン」ことタワーマンション。

「終の棲家」として購入しようと思う方もいらっしゃると思います。

実際にタワーマンションを設計した一級建築士だからわかる、タワーマンションのデメリットを8つまとめてみました。

タワーマンションの定義

タワーマンションとは、超高層のマンションのことを一般的に言います。

「タワーマンション」という名称に、明確な定義はありませんが、どのような特徴があるのでしょうか。

高さ100m・30階建てがタワマンの基準

建築物の高さが「60m以上」になると、建築基準法や消防法の制限が厳しくなることから、60m以上の建築物を「超高層建築物」とする考えが一般的です。

マンションですと1フロアあたりの階高が3m前後なので、「20階建て以上」のものをタワーマンションと呼ぶことが一般的です。

ただし、高さ60m以上になると、高さ100mまで制限がそれほど変わりませんので、実際は「高さ100m・30階建て」が一般的なタワーマンションと言えます。

もちろん、それ以上の高さ・階数でも、制限が厳しくなりますが計画可能ですので、タワーマンションと言えるでしょう。

タワーマンションのメリット

タワーマンションの最大のメリットといえば「眺望」ですが、その他にメリットはあるでしょうか。

資産価値が下がりにくい

一戸建てや通常規模のマンションでは望めない、開放感が高い景色が味わえます。

さらに高い場所なら遮るものがないので「日当たり」も良好です。

また「セキュリティ面」でも、上下階の移動がエレベーターのみになるので、入退館を管理しやすくなり、窓からの侵入もしにくいので、安心して住むことができます。

建築物自体も、制限が厳しいが故に強固なのになるので、災害時も比較的安心。

通常規模のマンションに比べて劣化もしにくいので、「資産価値も下がりにくい」というメリットがあります。

タワーマンションのデメリット

不動産購入時はそのメリットばかり目が行きますが、「終の棲家」として検討する場合は、むしろデメリットを知っておく必要があります。

しかし、このデメリットは、購入時には説明されないことが多いのも現実です。

建築物としてのデメリット、防災上のデメリット、生活する上でのデメリットの3つのジャンルに分けてデメリットを説明します。

建築物としてのデメリット

タワーマンションの建築物について、デメリットは3つあります。

老朽化しても建替えが困難、大規模修繕が容易ではない、バリアフリーなど通常の改修もしにくい、の3つです。

1.老朽化しても建替えが困難

タワーマンションは、建築物としては同じフロアを積み重ねるだけなので、建設自体は意外と簡単です。

ただし、解体となると困難を極めます。

マンションは必ず経年劣化し、最終的には「建替え」の話が出てきます。

通常規模のマンションなら、解体を含めた建替えに「1~2年」で済むところが、タワーマンションだと解体だけでも「1年前後」かかります(高さ140m・30階建ての赤坂プリンスホテルは解体のみで13ヶ月)。

さらに住戸数/区分所有者が多いタワーマンションでは、建替え決議も一筋縄ではいきません(建替え決議には区分所有者数の5分の4以上の賛成と議決権の5分の4以上の賛成が必要)。

結果、タワーマンションの場合、老朽化しても通常規模のマンションのような建替えがしにくくなります。

建築物の寿命は、財務省のデータではRC造マンションで「60年」としており、人生100年時代の昨今、この建替え問題は必ず出てきます。

出典:建物は何年もつか – 財務省

2.大規模修繕が容易ではない

マンションの経年劣化は避けられませんので、建替えまで行かなくても、定期的な「大規模修繕」が必要となります。

一般的にマンションで大規模修繕を行うのは「12年周期」とされ、タワーマンションでも同様のサイクルで行われるのが一般的です。

しかしタワーマンションの場合、通常規模のマンションのように、外壁部分に「足場」を設けることができませんので、大規模修繕も容易ではありません。

その結果、修繕にかかる費用も時間も、通常規模のマンション以上にかかる傾向があります。

大規模修繕が適切に行われないと、住みにくくなるばかりか、建物劣化で資産価値が下がる可能性も出てきます。

出典:計画修繕 ガイドブック – 国土交通省

3.バリアフリーなど通常の改修もしにくい

「60年に一度」の建替え、「12年に一度」の大規模修繕など、長期的なものだけではなく、身の回りの改修などの短期的な問題もあります。

中でも段差解消などの「バリアフリー改修」は、タワーマンションだとしにくい場合が多いです。

その理由は、超高層建築物特有の「切り詰めた階高」。

超高層建築物の場合、数センチの階高の違いも、積み重ねると膨大になるので、切り詰めた階高で計画されます。

階高に余裕があれば段差解消などもしやすいですが、切り詰めた階高だと、床下配管などもあって、段差解消もしにくいです。

地震には強いが災害には弱いタワーマンション

タワーマンションは「災害に強い」という印象がありますが、実際は「地震に強い」ということだけで、他の災害にはむしろ弱い面も多く見られます。

具体的には、水害に弱い、台風や強風に弱い、避難しにくいの3点が代表的です。

水害に弱い

タワーマンションだと、住戸はほとんどが2階以上にあるので、住戸自体は水害には強いです。

反面、住戸を配置しない1階と、地上部分とのバランスを保つために設けられる地下に、建物としての重要施設を配置することが多いので、建物としては水害には強いとは言えません。

1階や地下にライフラインに関係する重要設備を配した場合、水害時に浸水し建物全体が機能停止に陥ることがあります。

さらに駐車場が地下にあれば、自家用車も水害の被害を受ける可能性もあるでしょう。

タワーマンションの多くは、海や川の近くにあることが多いので、なおさらこの水害に対するリスクが強いです。

台風や強風に弱い

タワーマンションは地震に強いのなら、台風や強風にも強いと思いがちです。

確かに建物自体は強いですが、台風や強風の場合はタワーマンションならではの新たな問題が生じます。

その問題とは建物の「風ゆれ」です。

代表的な例は、1979年の20号台風時に新宿副都心界隈の高層建築物が有感振動を起こしました。

耐風設計という観点からは特に強い台風というわけではなく、最も揺れたビルの加速度も大きなものではありません。

しかし、「長時間続く」という地震にはない風特有の現象のために、中野電電ビルの場合を含め、不快になる者や不安になる者が相当数に確認されたのです。

近年林立しているタワーマンションは「長時間続く」耐風設計を行っています。

制振構造を採用することで風直行方向による振動やねじれ振動対策を施しているので、風ゆれも制御されてきています。

しかし、風ゆれ対策を行っていない古いタワーマンションは存在しています。

しかも地震なら一過性の揺れで済みますが、台風や強風の際は揺れが長時間続きます。

タワーマンションではその揺れに気づかず、体調を崩してしまう例もあるのです。

火災には強いが避難しにくい

タワーマンションは消火活動が行いにくいので、消防法の制限がとても厳しいです。

その結果、建物自体は火災にとても強い造りになっています。

一方、有事の避難はしにくい部分が多々あります。

現行法規では、避難活動でエレベーターの使用はできませんので、有事は何階であろうと階段移動が必要です。

さらに通常規模のマンションならバルコニーからハシゴ車による救出活動も行えますが、タワーマンションだとハシゴ車が届かないばかりか、そもそもバルコニーすら無いものもあります。

「火災」には強いが、「火災時」には弱い、そんな傾向があるのです。

タワーマンションで生活する上でのデメリット

最初はメリットばかりに目が行くタワーマンションでの生活。

住み始めると、徐々にデメリットにも気づかされることでしょう。

エレベーターの時間ロス

タワーマンションでは、住戸がある階までの移動は、基本「エレベーター」のみです。

階段はあっても、非常時のみしか使用できないものも多く、エレベーターへの依存が高い生活になります。

階数も住戸数も多いタワーマンションでは、どうしてもエレベーターによる移動や待ちによる時間のロスが多くなるでしょう。

通常規模のマンションより「10秒」待ち時間が長くなるだけでも、往復で「20秒」。

365日累積すると「約110分」も時間をロスすることとなります。

塵も積もれば山となる、タワーマンションのエレベーターの時間ロスです。

エアコン依存の生活になる

タワーマンションのメリットに「日当たりが良い」ということがありましたが、逆に日当たりが良すぎて、室内が暑くなるというデメリットも生じます。

さらにタワーマンションでは窓を解放できないものもあり、自然換気を自らできないものもあります。

その結果、エアコンを常に使わないと、室内環境を良好に保てなくなる傾向が強いです。

そのエアコンも、タワーマンションでは特殊なものを利用している場合が多く、自由に機器更新できない場合もあるので注意が必要でしょう。

まとめ

メリットも沢山あるタワーマンションですが、「終の棲家」として考える場合は、そのデメリットも知っておきましょう。

特にタワーマンションを購入する際、メリットしか聞かされていない場合が多いです。

デメリットをあらかじめ知っておけば、購入時に質疑することもできることでしょう。