【旭化成建材の杭打ち工事偽装】住民側の権利から徹底検証

2015年、横浜市内のマンションが傾斜したことで発覚した杭打ち工事でのデータ改ざん問題。

これまでに多くのメディアや建築・不動産関連のブログなどで語りつくしてきたことでしょう。

ですが、多くの記事は不正を行った旭化成建材の問題点や建築業界内の問題点を指摘するばかりで、実際に被害を被っている住民の権利についてはあまり語られていません。

そこで、この記事では旭化成建材の問題と住民の権利について解説していきます。

瑕疵のある建築物を購入するということ

「瑕疵がある」とは「欠陥がある」ということであり、ここでは「地盤データの改ざんによる杭の欠陥」を意味します。

一般的にマンションなどの建築では、100本を超える杭を打ちます。

例えば、その内の1本が支持基盤に届いていなかったとしましょう。

その1本が直ぐにマンション倒壊に繋がるのかと言えば、そうではないと多くの工事関係者は答えるでしょう。

件の問題となった横浜市内のマンションでは、4棟で473本の杭を使用しており、内70本に瑕疵があったことが判明しています。

約15%もの杭に瑕疵があったことが判明しているわけですが、直ぐに「倒壊」しなかったとしても「傾斜」は続くことでしょう。

もし、東日本大震災の様な大きな地震が襲ってきたら?間違いなく「倒壊」の危険をはらんでいるといえるのではないでしょうか?

つまり、「瑕疵があること」を知らずにこのマンションを購入した住人にとって、「例え1本であっても杭がマンションを支えていない」という事実は、自分たちの財産権だけでなく生存権までをも侵されていることに他ならないのです。

マンションに住む住人の権利

日本国憲法には、幾つかの「権利」に関する条文があります。

マンションの住人にとって気になるのはその内の「生存権」と「財産権」です。

憲法第25条「生存権」

生存権の条文には以下の様にあります。

第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

一見、杭打ち工事偽装とは無関係の様に思われます。ですが、傾斜した建物に住み続けることを考えてください。

傾いた建物に住み続けると、めまい・吐き気といった健康障害が起きることが分かっています。

日本建築学会の資料によれば、傾斜角0.6度程度でめまいや頭痛などが起こり、2度を超えるとめまい・頭痛だけでなく、吐き気や食欲不振まで起こるとしています。

7度を超えれば、疲労感や睡眠障害といった症状まで見られると報告しているのです。
(参考:日本建築学会HP

つまり、「健康で」といった部分が守られていないのです。

憲法第29条「財産権の保障と限界」

第29条の条文には以下の様にまります。

第1項 財産権は、これを侵してはならない。

これは、財産権を保障する条文で、誰も人の財産権を侵してはならないとしているのです。

では、横浜のマンションの住人の立場でこの条文を考えてみましょう。

横浜市内のマンションの平均価格は5,480万円です。この件のマンションは大型商業施設に隣接し、更にJR鴨居駅に近いということもあり、超高額であることは予想できます。

多くの住人はローンを組み生涯をかけて、中には親子2代で返済していくこととなります。

「瑕疵がある」という言ことは、財産価値がないということでもあり、当然第三者に売ることも出来ません。

「瑕疵」の存在そのものが既に住民の財産権を侵害しているのです。

マンション建て替えの難しさ

当該マンションの販売元である三井不動産レジデンシャルは、住民に対し全棟建て替えを提案しています。

ですが、実はこの建て替えが簡単ではないのです。

建物区分所有法第62条「建替え決議」

分譲マンションで生ずる法律問題を解決する法律基準を示しているのが、「建物区分所有法」です。(正式:建物の区分所有等に関する法律)

この法律についての詳細説明は今回は省きますが、建替えについては以下の様に定めています。

第62条「建替え決議」

集会においては、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、「当該建物の敷地若しくはその一部の土地」または「当該建物の敷地全部若しくは一部を含む土地」に新たに建物を建築する旨の決議をすることが出来る。

建替えの要件

建替えるためには、以下の要件を満たさなければなりません。

  1. 区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成
  2. 同一敷地の全部または一部を含む土地での建築

この2つの要件の内注目をしたいのが1.の要件です。

705戸の内80%以上、564戸以上が賛成すれば建替えることが出来ます。

ですが、当事者の立場に立って考えてみて下さい。

当該マンションの工事には2年1ヶ月かかっています。

建替えるためには解体工事も含みます。

そのため、最低でも3年はかかると言われているのです。

住民は3年以上このマンションから離れて暮らすこととなるのです。

就学児童がいる家庭の場合、特に公立の学校に通っている子供がいた場合、引越しをするということは転校すると同義語なのです。

多くの方はマンションを購入する場合、子供の学校のこと自分の通勤の利便性、商業施設などの住環境といった様々な条件を検討します。

短期間とはいえ引越しをするということは簡単に決断できることではありません。

まとめ

旭化成建材の杭打ち工事偽装は、建築業界内の問題であると同時に、マンションの住む住民の権利を侵害している不法行為でもあるということを忘れてはいけません。

第三者委員会を設置し、不正の内容を調査し、事実を報告した後、記者会見を開いて公に謝罪すれば終わりではないのです。

これからもそのマンションに居住し続けなければならない住民の権利回復をして初めて、問題解決となります。

行政処分を受けた旭化成建材、日立ハイテクノロジーズ、三井住友建設の三社が今後どのような落とし前を付けるのか、業界全体で注視していく必要があるでしょう。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です