PC工法とは?スタジアム建設などに使われる注目の建築技術を解説

中大規模の建設工事にて使われる事のあるPC工法。

スタジアムの他にも大学やマンション等の建築にも使用される事が多くなりました。

海外の建築でも使用される事もあり、世界的有名な芸術建築家、アルヴァロ・シザの建築にもこの工法が使用されています。

今回はそのPC工法を使用した建築技術をご紹介致します。

PC工法とは?

プレキャスト鉄筋コンクリート工法(通称PCa)のこと

通常の建築工事では地盤改良(又は杭打ち)を行い、基礎躯体の工事、そして上階の躯体工事と現場敷地内での工事が一般的です。

それとは違い、PC工法は基礎躯体以降の躯体部分を予め建築図面を参考に制作工場にて制作する事により、躯体の精度の良さ、そして工期の短縮を実現出来る工法です。

また、PC工法はPC鋼線、PC鋼棒といった物を使用しており、躯体の中にこれ等を通し、緊張する、つまりは鋼線、鋼棒を両サイドから引っ張る事で耐久性をより向上させる事が出来ます。

通常のRC造における工法との違い

本来、RC造の作業工程は、躯体の大きさに加工されたベニヤ板を使用した型枠を立ち上げ、その後構造設計により決められた配筋方法による鉄筋配筋を行います。

鉄筋配筋が終わると、構造設計者、意匠設計者による配筋検査を行い、問題が無ければ型枠をふさぎ、コンクリートを流す為に型枠の強度を保つため、型枠の固メを行い、その後コンクリート打設を行います。

以上の長い工程を必要とする、これがRC造です。

ですが、PCa工法はこの工程を全て制作工場で行い、また木製ではなく鋼製型枠を使用、転用する為、材料費等のコスト削減になります。

PC工法の特徴・メリット

建設工事工程の短縮化

制作工場と事前打ち合わせにより予め躯体を作る事で現場内作業の短縮、構造設計者、意匠設計者による配筋検査も先に行う事で現場での検査スケジュールが不要になります。

検査が完了した後建築現場との打ち合わせを行い、建て方順序通りに配送された製品はクレーンを使用し建て方を行っていきます。

建て方自体は時間がかかる物ではなく、スムーズに行くとRC造工程より2分の1程短縮する事が出来ます。

建て方が終わった後、製品同士の取り合い部分、柱と梁の接合部分を型枠を使用し固メ、コンクリート打設を行います。

RC造とは違いコンクリート数量は接合部分及びスラブ部分の打設のみとなるので、数量も少ないので打設作業の時間短縮にもなります。

PC鋼線、鋼棒による躯体耐久度の向上

PCa工法は通常のRCと違い、別にPC鋼線またはPC鋼棒を使用します。

見た目はワイヤーのようなもので、これを緊張、両サイドから引っ張ることにより躯体の耐久度を更に向上させる事ができる仕組みです。

例えると、ストローを横に持った場合、真ん中を強く押すとストローは曲がります。

ですがその中に糸を通し、両端で引っ張った状態のストローだと同じ力で押してもストローは曲がりません。

同じように、鉄筋コンクリートで躯体を作る時にPC鋼線を通す事で鉄筋だけでは耐えられない抵抗力にも耐える力を持つのです。

このPC鋼線は先入れ、後入れの2種類存在し、先に入れる物は柱、スラブ部分。

後に入れる物は梁が基本の流れです。

ですが、ただ引っ張ればいいという物ではありません。

引っ張りすぎればPC鋼線は千切れてしまいますし、弱ければ効果を満たしません。

ですので予めPC鋼線による引っ張り力の限度を計算し、その力をN(ニュートン)に換算する事で引っ張りによる躯体自体の耐久度を数値で表し構造計算によってその力を決めるのです。

こうして躯体の耐久度を向上させます。

躯体の高精度を保つ省エネな工法

本来のRC造であればベニヤ板を使った型枠を使用します。

ですが、これだとコンクリート打設をする際いくら固めていても木を使っているので曲がってしまい、通常の規定寸法より大きくなってしまう部分が発生します。

こうなってしまうとベニヤ板によって膨らんでしまった部分は電動ピックといった電動工具で斫り作業、その部分だけを壊さなければいけなく、逆に寸法より内に躯体が来ている場合は左官による補修作業を行うという追加工程を行わなければいけなくなります。

ですが制作する工場で行う場合、ベニヤ板等の木材ではなく、鋼製板、鉄の板を使用する事でコンクリート打設による型枠への負荷を抑え、非常に精度の良い製品を作り上げる事が出来ます。

これだけで斫り、補修等の追加工程を無くし、それだけの材料を使用する事を抑えることが可能になります。

躯体の高精度を保ちながら、補修などによるリスクを無くす、鋼製板なのでベニヤ板と違い何度でも転用する事ができるので省エネに、そして後のコスト低減になります。

現場打ちPC工法について

建築現場によって、耐久強度を上げたいが建て方をする為のクレーンの設置場所がない場合があります。

その場合は建築現場にて鉄筋配筋されている梁躯体に管を通し、打設後にその管へ鋼線を通し緊張するといった現場打ちPC工法という建築技術が存在します。

通常の工程に追加で配筋された鉄筋の中に管を通すのでその分の時間はかかりますが、後に緊張を行うので通常のPCa工法と同じく耐久度の向上が可能になります。

もちろん鉄筋の中に管を通した後に構造設計者による検査は必要ですが、躯体に影響のないよう管を通すので鉄筋かぶり、鉄筋から5cm以上取れていれば問題はありません。

ですが、コンクリート打設時に管へ直接当ててしまうと管の位置がずれてしまう可能性があるので、注意が必要です。

PC工法を使った代表的な建築物

長野オリンピックスタジアム

客席の座る部分の床、それを支える梁の部分をPca工法を使用しています。

人によって立ち上がり、動いたりと力が多く掛かる部分になるので、その力による躯体への負荷をPC鋼線等によって補っている仕組みです。

これ等は他のスタジアムでも使用されることがあり、別名PCスタジアム工法とも呼ばれます。

リスボン万博・ポルトガル館

世界的有名な建築家、アルヴァロ・シザによる建築物です。

両サイドにある大きな躯体をつなぐ屋根、これがPCa工法による技術を使用しており、布等ではなくコンクリート躯体なのです。

厚みは20cmあり、長さが65mと非常に長く、この躯体の中にPC鋼線を通し緊張する事で落ちることなく15年以上も保ち続けています。

PCa工法を使うことでの結果が大きく出ている建物ですね。

最後に

PCa工法は非常に様々な建物で使用されています。

それは躯体の耐久度を上げるだけではなく、芸術を創る事でも必要とされています。

今後の大きな災害、地震による建物の崩れを防ぐために、今では古くなった学校や病院等にも耐震補強として新たに躯体を作りPC部材を使用している建物も多くなりました。

この先起こりうる災害という未来を見据えた建築技術として必要な工法になるでしょう。

鉄筋工事や型枠工事を行う作業員が減少している中、こういった工法を使う事で残業といったリスクを補い、働き方改革へとも繋がるのではないでしょうか。