【基礎杭工事問題】横浜マンション傾き事件について原因や業界の構造について解説

自宅の床にビー玉を転がしたことはありますか?

転がれば床が傾いているということです。

ということは自宅自体が傾いている可能性があります。

この傾斜角度は、実は「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」で、新築の家で基準点より1,000ミリ(1メートル)離れた所で3ミリ以下(3/1,000以下)であれば許容範囲内と定められています。

許容範囲は健康被害が出ない範囲です。

ずっと傾いた部屋で日常生活をしていたら船酔いのようなめまいを起こします。

でも、出来上がったばかりの新居が傾いているなんて誰でもいやですよね?

そんな事件が、横浜マンション傾き事件を代表とする『基礎杭工事問題』です。

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横浜のマンション傾き事件の概要

マンション傾き事件は、2014年横浜市都筑区にある大型ショッピングモール『ららぽーと横浜』に隣接している『パークシティLaLa横浜』で発覚しました。

三井不動産レジデンシャルが販売した全4棟705戸の分譲マンションのうち1棟の渡り廊下の手摺りがずれていることが発覚したのです。

手摺のずれからマンションの傾きが判明

調査の結果、4棟のうち1棟が傾き、手摺りに2センチのずれ、50本の杭のうち8本が強固な地盤(支持層)に達していなかったことが判明しました。

そして横浜市、国土交通省は販売主の三井不動産レジデンシャルと施工元請けの三井住友建設に原因の調査を依頼。

その結果、三井住友建設の二次下請けになる旭化成建材が杭打ち施工に必要な地盤データに他のデータを流用していたことがわかりました。

調査の結果、データ流用が発覚

ひどいことに旭化成建材のデータ流用はこの『パークシティLaLa横浜』だけにとどまらず、全国で約300件、杭のデータ偽装の疑いがあり、50人近くの現場責任者の関与が判明しています。

つまり、データ流用が既製コンクリートぐい業界で広く行われていたことも判明しました。

問題のマンションは三井不動産が住民との交渉の末、この1棟だけではなく全4棟を建替え、建築費、引越し費用、仮住まいの費用、慰謝料などの諸々を負担することで進み、この莫大な費用をどこが負担するか係争中です。

なぜ起こったのか?原因は基礎杭の施工不良

『基礎』の表すその文字通り建物の重要な礎となる『基礎工事』でしょう。

ピラミッドが現在も姿を残すのは、基礎の技術があったから

エジプトのクフ王により建造されたギザの大ピラミッドが4500年も経つのに今もその雄大な姿を残すのはまさしく正確に基礎固めが出来たからです。

1辺が230メートルある大ピラミッドの北西辺と南東辺の底辺の高低差は3.8センチしかありません。

品確法の許容範囲内に十分すぎるほど収まります。

ビー玉が転がる傾斜角度ではないですね。

あの巨石を積み上げただけのかたまりが4500年もの歴史を刻めたのは基礎を大事にする知識と技術があったからです。

本件における手摺りの2センチの差異はそのあと十分拡大する可能性もあれば、震災に被災すれば倒壊の危険性もあったでしょう。

原因は適当なデータから始まった【日本の地層は世界一複雑】

日本の地質は世界一複雑と言われています。

建築物施工に当たっては当然事前調査が重要です。

しかしながら、今回の地質調査のデータは適当なもので、これでは人の命を守る安心して生活できる居住空間をその上に積み上げるなどということは言語道断なことでした。

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地質調査データにより、大きく工事費用が変わる

さらに地質調査データによって杭長を想定し、基礎の形状も決まりそれによって施工方法が検討されて工事費用が算出されます。

これによって建設コストが変わりますから、重要なポイントです。

基礎工事は終わってから確認できない

そればかりでなく、この基礎工事は地中でのことですので、工事が終わってからでは確認をすることが不可能になります。

実際の施工に当たってはこの基礎工事を熟知した者の監理監督が必要で今回のような支持層に杭が到達していなかったり、根固めの材料注入のデータを流用したなどということはありえない話なのです。

しかし、そのありえない話がこの『パークシティLaLa横浜』で行われていました。

原因を深堀【建設業界の重層下請構造】

引用:『重層下請構造の改善に向けた取組について』(国土交通省)

では、なぜそんなありえない話が起きてしまったかを、考えていきましょう。

一般の方でご存じない方が多いと思いますが、建設業界は重層請負構造です。

元請は直接仕事をしない【下請が専門工事を行う】

元請けのゼネコンが仕事をするわけではなく、ゼネコンは協力業者を使って仕事をさせます。

そしてその下請け業者が多いときには五次まで続く場合もあります。今回の場合は三次下請まででした。

・発注者   三井不動産レジデンシャル(三井不動産)
・元請負者  三井住友建設
・一次下請  日立ハイテクノロジーズ
・二次下請  旭化成建材
・三次下請  実際の施工会社

三井住友建設は元請負者の建設会社ですから現場に常駐し、すべての工事を取仕切ります。

杭工事を行う時期にはほぼ他の業種の業者は入らないので三井住友建設職員は竣工までの計画や関係資料の作成に事務所で追われます。

杭工事は専門性が高すぎるため業者任せ

建築工事の中でもこの杭工事は特殊で工事の監督も書類に関してもほぼ業者任せです。

三井住友建設から杭工事を請けた日立ハイテクノロジーズはほぼ何もやっていません。

商社的な立場です。三井住友建設との契約書の締結と仕事の終了時に請求書を持っていくぐらいでしょう。

日立ハイテクノロジーズから仕事を請けた旭化成建材が杭工事の計画から材料の手配、各種書類の作成、現場管理をします。

そして、実際の施工は三次下請の施工会社が行います。

この三次下請業者は旭化成建材に指示されたことだけを忠実にこなしたと思います。

この重層下請構造が日本の建設業界の実情です。

これだけ下請け業者が重層になってしまうのは、建築工事の中での専門性の高い特殊な技術を持つ零細業者がいて、その零細さのために元請け業者が直接契約出来なかったり、材料メーカー独自の商社的建設会社があって、商流でどうしても使わねばならなかったりと、日本の歴史の中で出来上がったこの重層下請構造も今回の事件の原因の一つでした。

下請ほど薄利で責任感も希薄

一次から二次、二次から三次へ降りていくにつれ、請負金額は厳しいものになり、利益は希薄になり、それに比例して責任感も希薄になっていきます。

そして、この事件後の2016年に国土交通省は『重層下請構造の改善に向けた取組について』と題して『中央建設業審議会・社会資本整備審議会産業分科会建設部会基本問題小委員会中間とりまとめ』を出して改革をうたっています。

その中で重層下請構造を改善していこうと言っています。

しかし、言うは『易し行うは難し』です。

重層下請構造になれば下に行くにしたがって利益は薄くなっていきます。

現在成り立っている構造を崩し、その中で生活しているすべての人間が安心とやりがいを持って日々の仕事に従事出来る仕組みを本当に作れるならば、この氷山の一角であった『基礎杭工事事件』と同種の事件がこれから起こらなくなるための一役を担うことは出来るでしょう。

マンション傾き事件の根底は変わらない?

『姉葉事件』構造計算書偽造問題においてはその直後に建築基準法が改正されて『構造設計一級建築士』・『設備設計一級建築士』による法適合チェックが義務付けされました。

国は国民の建設業界に対する信用が揺らぎ海外からの不信感を招くといった言い方をします。

国は自身で掲げる『働き方改革』もこのことに結び付けてきます。

法の整備だけで今回のような事件の根底は変わっていくのでしょうか。

人手不足は解決されていない

まずは『人手不足の問題』です。

一次下請の日立ハイテクノロジーズは論外です。

二次下請である旭化成建材には主任技術者を専任で配置しなければならない義務があるにも関わらず外注社員に任せて、他の現場も複数の掛け持ちをさせていました。

主要業務を三次下請業者に任せきりということになります。

人間がいないから忙しい。忙しいから仕事が適当になっていってもいいのでしょうか。

『グレシャムの法則』が当てはまるような気がします。『そもそも人間は、目の前に大量のルーチンワークを積まれると、その処理に 追われ、創造的な仕事を後回しにしてしまう傾向がある。』という法則です。

あまりの忙しさに仕事を終わらせることばかりに気持ちは向かってしまい。

惰性と慣れで自分のやっている過ちに麻痺してしまうのではないでしょうか。

必要な工事費が残らない

そして、これに加わるのは『お金』です。

マンションデベロッパーである三井不動産グループは、マンション用地として自社が努力の末手に入れた土地でその能力を100%以上活かせるように分譲計画をして試算をします。

各戸の売値を決めて総戸数で売り上げを出します。

そして、まずは自社の利益を確保します。

続いて用地取得費、その他もろもろの経費を引いた残りの金額が工事費です。

引き算で残った金額が工事費です。ゼネコンが積み上げて算出する工事費が予算とはなりません。

三井不動産はエンドユーザーではありません。最終的なエンドユーザーは各戸の購入者であって三井不動産は予算内の金額で売れたらいいのです。自社の利益が確保できればいいのです。

これでは真剣になれないと思います。現実味に乏しい机上のみのマネーゲームです。

発注者は元請け会社に請負わせたからすべての責任は元請け会社およびそれ以下の会社にあると済ませてよいのでしょうか。

実際、元請け会社も以下の下請け各社もプロですから請けた以上、仕事はこなさなければなりません。

しかし、本来はただこなすだけではなく最高の仕事で工事を終わらせなければなりません。

毎回厳しい契約ばかりであれば誰でも気持ちは萎えてくるでしょう。企業利益の確保のために安全性を軽視する企業風土などが生まれてはなりません。

工期の短さと予算の厳しさからプロの意識を失ってはいけないのです。

発注者にも責任はあります。今回のこの事件でもそうでしょう。請負側の企業努力だけでは限界があり、国の提唱する『働き方改革』などにとても及びません。

品質=お金

知り合いの建築屋から聞いた話です。

あるゼネコンが飛ぶ鳥を落とす勢いの関西の電気機器メーカーの工場新設の仕事を請けたそうです。

ゼネコンとしてのステータスのための赤字受注だったそうです。それでも会社は取って来いと指示を出したそうです。

そして順調に工事が終わりかけて竣工式の前日にその建物の竣工式の会場となる大会議室の天井が漏水とともに落ちたそうです。

バタバタと仕舞工事を天井裏でやっていた設備屋がスプリンクラーの配管を蹴って出水させてしまったことが原因だったそうです。

発注者の社員の誰もがその時には次の日にやって来るその会社のカリスマ会長にどう説明するかばかり考え竣工式までの12時間ほどは生きた心地がしなかったそうです。

でもそこの現場の所長の電話で関西中から材料をかき集めて内装屋さん、設備屋さんが集まって職人さん全員が徹夜で元通りに仕上げたというのです。

事無きを得て発注者の社員とゼネコン社員、職人さんで肩を叩き合って喜んだそうです。

こんなことが出来たのはもちろんこの所長の人徳です。そしてこの所長はそれまでどんなに苦しい現場でも下請け業者さんを泣かすことは無く必ず利益を持たせて会社に帰していたとのことでした。

すべてとは言いませんが、やはりお金なのです。すべての人がお金を稼ぐために働いているのですから。

まとめ

今回のこの『基礎杭工事問題』、悪意を持った誰かが犯人なのではなく、利益至上主義のマンションデベロッパー、『安くて良いものを』と本来ありえない無理を望むエンドユーザーにも責任の一端はあるような気がしてなりません。

国の提唱する『働き方改革』や『新3K』(給料・休日・希望)が実現すればこんな事件は無くなるのではないでしょうか。

だとしたら、多くの人が密接に関係しながらも、今の厳しい建設業界を見過ごしてきた世の中にも責任はあるように思います。

鉄筋コンクリートの設計について

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