住宅型老人ホーム投資は、素人は絶対に手を出してはいけない

「老人ホームブームはもう終わり」

かつては高齢化社会の波に乗って「老人ホームは儲かる」と言われ、異業種からの参入も相次いだ住宅型老人ホーム市場。

しかし、ここ数年でその風向きが明らかに変わってきました。

銀行や不動産業者の間でも、「採算が合わない」「買い手が付かない」「破綻リスクが高い」といった否定的な声が多数聞かれるようになっています。

今回は、そんな住宅型老人ホームを、建築・金融・不動産の三つの視点から徹底解説します。

住宅型老人ホームの鉄筋工事

住宅型老人ホームの建築は、一般住宅に近いスケールで進められることが多く、一見すると手軽に参入できそうに見えます。

しかし実際には、構造やコストの特性、そして昨今の建設費の高騰によって、大きなリスクを内包しています。

このセクションでは、基礎構造や鉄筋量、建設費の推移などを詳しく解説します。

住宅の基礎は基本、布基礎

住宅型老人ホームは、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームのような大規模施設とは異なり、木造または軽量鉄骨を使った建物が中心です。

基礎構造には一般住宅と同様に「布基礎」が採用されるケースがほとんどです。

鉄筋にはD10(直径10mm)やD13といった細径の鉄筋が使われるため、鉄筋屋は住宅の基礎工事をやりたがりません。

なぜなら、鉄筋屋の請負単価は鉄筋総重量*単価で決まるので、一日当たり施工できる鉄筋量が少なければ利益が減ってしまうからです。

鉄筋総重量が少なく、且つ細かな配筋が多いため、請負単価を高く契約できなければ施工を請け負わない業者がほとんどでしょう。

このように、小規模の工事の割に工事金額が高くついてしまうのが住宅基礎工事の特徴です。

ポイント

大抵の鉄筋屋は200kg/1人工で計算する
例:
10tの住宅鉄筋工事の場合は、50人工
(鉄筋加工、運搬は別途)

25室程度の施設であれば、鉄筋使用量は約20トン前後が一般的

建設費はコロナ以降2倍に急騰

2020年以降、世界的な原材料費の高騰や人手不足、輸送費の増加により、建設費は劇的に上昇しました。

住宅型老人ホームも例外ではなく、以前は1億円前後で建てられた物件が、現在では3億円を超えることも珍しくありません。

建設コストが倍になっても、賃料を2倍にできるわけではないため、初期投資の回収が難しくなっています。

ポイント

建設コストを低くできるコネを持っているなら、強みになる

住宅型老人ホームに対する銀行の評価

施設を建設するうえで無視できないのが「銀行からの評価」です。

融資が下りるかどうか、どのような条件になるかは、事業として成立するか否かを左右します。

最近では、銀行側も慎重な姿勢を強めており、住宅型老人ホームに対して消極的なケースが目立ちます。

その背景には、人口構造の変化や競合の激化、運営リスクなど、様々な要因が絡んでいます。

市場規模は縮小傾向

「高齢者が多いから、老人ホームの需要はこれからも伸びる」という認識は、すでに古いものになりつつあります。

内閣府の統計を見てみましょう。

資料によれば、確かに2040年までは65歳以上の高齢者数は増加傾向にあります。

しかし。2040年をピークに65歳以上の高齢者人口そのものが減少に転じると予測されています。

特に地方都市では、高齢者世帯が自宅での生活を希望するケースも多く、介護サービスの在宅化が進んでいます。

そのため、老人ホームの「供給過多」問題は都市部よりも地方で深刻化しており、銀行としては「今から老人ホームを建てても、せいぜい持って15年で、需要に追いつけない」という冷静な判断を下しているのです。

激しい価格競争に巻き込まれる構造

住宅型老人ホームの費用負担は、高齢者本人ではなく、その子や親族が担うことが一般的です。

そのため、毎月の費用負担は大きな壁となり、施設側は7万円〜9万円といった低価格帯に収めざるを得ません。

その一方で、食事・掃除・見守りといった基本サービスの提供コストは年々上昇しており、利益を出すのが極めて困難な構造です。

介護保険を使えるサービスも限定的であるため、入居者数が減少すれば、即赤字に転落するリスクを常に抱えています。

運営会社が破産したら終わり

住宅型老人ホームの建物は、単体で見ればあくまで「箱」です。

そこに訪問介護・訪問看護・福祉用具レンタルなどの外部サービスが乗ることで初めて事業が成立します。

しかし、これらを統括する運営会社が破綻してしまえば、施設の機能は事実上ストップします。

運営会社は直接の資本(ここでいう建物)を持たず、県や国から助成金を受け取りながらビジネスを実行できるので、ビジネスをやるメリットがあるんですね。

しかしながら、賃料を上げるには限界がありますし、スタッフの確保にも大きな問題があります。

介護施設では人員基準を「3:1」つまり入居者1人につき3人のスタッフを配置する必要がありますが、住宅型老人ホームの場合はその規制はありません。

ただ、基準がないからと言ってスタッフ数を減らせば、超劣悪環境のブラック企業として、働くスタッフはまず居なくなるでしょう。

賃料を上げられない中で、優秀なスタッフを確保するために人件費を増加は避けられない。

経営が安定している運営会社は、「薬」や「保険」で収益を上げ、その収益を人材確保に充てています。

このように経営がしっかりしている運営会社を味方につけないと、住宅型老人ホームの経営は厳しいでしょう。

住宅型老人ホームに対する不動産屋の評価

不動産業者の視点では、「この建物がいざとなったときに売れるか」「投資先として魅力があるか」が重要な評価ポイントになります。

しかし、住宅型老人ホームはその特殊性ゆえに、中古市場での流通が極めて難しい不動産でもあります。

このセクションでは、売却時のハードルや利回りの実態について掘り下げていきます。

途中売却を検討したとしても、まず、買い手が付かない

住宅型老人ホームの中古物件は、一般の不動産市場では非常に流通しにくい物件とされています。

用途が限られており、改修コストも高くつくため、買い手が非常に限られるからです。

また、地方ではすでに老人ホームの空室が目立ち始めており、「新築よりも中古の方が安くても入らない」という現象が起きています。

これは事業用不動産としての「出口戦略」が極めて描きづらいことを意味しています。

表面利回りは5%前後で、特別利回りが高いわけではない

表面利回りだけを見ると5〜6%といった数値が出ることもありますが、これはあくまで「満室・安定稼働」を前提とした理想的なケースです。

実際には空室・退去のリスク、スタッフの採用・定着コスト、医療機関との連携にかかる費用などがあり、実質利回りは3%を切ることも珍しくありません。

不動産投資としての魅力は年々低下しています。

実際に提案をもらった時の利回り計算は約6%

ポイント

施工費が高い
利回りは低い
建物を売却できる可能性は低い

結論:建設関係や運営会社にコネがある人以外は絶対に手を出すべきではない

住宅型老人ホームは、表面的には「社会的意義があり、安定収入が見込める事業」に見えるかもしれません。

しかし、その実態は、設備投資の負担が大きく、スタッフの確保・教育・定着にも手間とコストがかかる、非常にハードルの高いビジネスです。

しかも、今後の市場規模は縮小が見込まれ、競争も激化するばかり。

銀行や不動産業者が「手を出すべきではない」と断言するのも無理はありません。

参入するなら、医療法人や薬局グループと提携して収益構造を複線化し、しっかりとした運営体制を築ける体制が必要です。

そうでなければ、「建てたはいいが誰も入らない」「売却先も見つからない」という最悪のシナリオになりかねません。

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